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執筆者の写真Hitoshi Ishii

新しい旅立ち

新たな年を迎え、4月から進学や就職をし新しい環境に飛び込む人は不安と希望を胸に抱えていると思います。


 行春や 鳥啼魚の 目に泪


これは、松尾芭蕉が「奥の細道」の出発点である千住でよんだ句ですが、

芭蕉はこの年で自分の家を他人に明け渡し旅に出ることにしました。

芭蕉が旅に出た年は、平安時代末期の歌人である西行が500回忌を迎える年で、芭蕉は西行を慕っていたため、西行の題材や名跡をたどる目的があったと言われています。

 

 当時は長生きの人もいましたが、江戸時代の平均寿命は50歳未満だとされています。

 そのなかで46歳の芭蕉が旅に出るということは、次に帰ってくるかどうかもわからない状況です。

 

 芭蕉が江戸の千住(現在の東京都足立区)から旅立とうとしているとき、芭蕉の門弟や友人、芭蕉を経済的に支えた杉山杉風など多くの人が見送りに来ました。

 その時の別れの様子を「行く春や 鳥啼き魚の 目は泪」という句にして芭蕉は詠みました。つまり、その場の全員が別れを惜しんでいる状況だったのです。また、芭蕉自身も自分はこれが友人たちとの今生の別れとなるかもしれないと思っていたでしょう。


  その後150日間に及ぶ「奥の細道」の終着点である大垣の地に着きます。そして、「おくのほそ道」終焉の地である大垣で詠まれた句が、今回取り上げた「おくのほそ道」の結句


 蛤のふたみにわかれ行く秋ぞ   なのです。

 この旅の始まり、江戸を出発する際にも「行く春や鳥啼魚の目は泪」と詠まれており、この二句は対を成すといわれています。


 そして、どちらも別れを詠んだ句なのですが、「行春や…」は寂しさのみを感じさせる物に対して、「はまぐりの…」はこれから伊勢神宮のある二見ヶ浦に向かって、新たな旅をする決意を感じさせます。ここまで苦しい旅を続けてきた芭蕉が、人生の旅の終わりだと思った大垣に着いて、さらに二見ヶ浦へ新しい旅に向かうわけです。


 これから、進学、就職をする皆さんも今までの寂しさを払拭し、新たな旅に向けて出発してほしいと思います。


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